部活で無理矢理それを忘れてどうにか1日やり過ごす。これから先の1ヶ月、この生活が続くと思うとうんざりしてくる。そうして今日もオレは、それと睨めっこをして1日を過ごすのだ。 あと、29日と11時間。それが過ぎたら彼女に会える。 夏休みをこんなに恨めしく思ったのは初めてだった。いつだって夏休みはオレにとっての強い味方で、1度だってその信頼関係を裏切ったことなどなかったし、少なくともオレが学生である限り、それは永遠に続くものだと思っていたのだ。それが、今年に入って一変した。常に強い味方であった筈のそれは、突如として大きな壁になりオレの目の前に立ち塞がる。押しても引いてもビクともしない。 「あーあぁ…夏休みよ早く終われーぃ」 ガリガリくんを口に咥えて片手に団扇、猫背になって睨めっこ。いくら睨んでも日付が変わる訳なんかないって、そんなことは重々承知の上だけど、それでも。 ずっと黙ったまま。オレがいくら睨んでも全く動じずにビクともしないヤツは、オレのこれまでの人生の中で最大の敵だ。それはきっと間違いない。 涼しい顔してこうもあっさりと。 オレからやる気も何もかも吸い取ってゆくのだ。 溜め息ひとつ。くるりと向きを変えてから顔を上げれば雑誌の中で、ニヒルに笑う黒い男が視界の中に飛び込んでくる。筋肉ムキムキ白い歯キラキラ。ここまでやっちゃうとキモいかもしれない、なんて。思ったりもした。ほんのちょっと。 「夏の似合う男かあー・・・」 思わずぽつりと呟いて、頭の中で今の言葉を半濁してみる。それを自分に置き換えて、しばらくじっくり考えてみた。寝癖だらけの髪の毛に色落ちしまくりユニフォーム、下はいつものジャージのまんま。今のオレでは夏男なんて無理だろう。ラッキーだって逃げてしまうに違いない。 死んだ魚のような目をしていることだろう。ガリガリくんは溶けかけて、そのうち床を汚してしまうことだろう。そうして今日もオレは南に散々怒鳴られて、彼女に逢えないこのさみしさをどうにかこうにかやりすごすのだ。なんて情けない。 「夏の似合う男・・・」 呟きながら天を仰いでガリガリくんを口に含んだ。南のロッカーに無理矢理設置した、それをぐるりと覗き込む。背筋がちょっとだけ痛い。頭には血が上る。何もかもが逆さまに映る。 逆さまになったそれは、けれども日付が変わることもなく。 こうなったらとことん、筋肉つけて肌を焼いて(嫌でも部活でそうなるだろうけれど)、夏の似合う男を目指してみようか。あの広告に載っていた例の男を見習って、鏡の前でニヒルに笑う練習をしてみようか(もちろん南も道連れで)。新学期になって、見違えるほど格好良くなったオレに、もしかしたら彼女も恋をしてしまうかもしれない(可能性は低いけど)。 あと、29日と10時間。 今からそれを目指しても、十分間に合う。遅くはないさ。 決意を新たに愛用ラケット握り締め、部室のドアを開けてみる。 がちゃり、 BACK 200407...夏色お題05より。 |