例えば白と黒をまぜても白くはならないように黒くはならないように、ましてやピンクにはならないように、それは決して有り得ないことだけれども。
白と黒をまぜても
らしくないよと私に言った。過去をひきずり悩むのは醜いだけだと叱咤した。止まってるのはあんただけ、あっちはもう、前に進んでるんだから。
そんなことは十分わかっている。だけど知らないふりをした。忘れたふりをして、自分の気持ちに蓋をして、もう2度と思い出さないように。忙しさにかまけて忘れられるならそれもいい。外部を受験することで振り返らずに済むものならば、喜んでそうする。
けれどもそうすることを拒んだのも他でもないわたしだった。わたしがする全てのことは彼につながっていて、だから今更ふりほどくことさえできずに、わたしはそれをひきずった。ずるずるずるずるひきずられたそれは、ひきずりすぎたせいでぼろぼろになり、色も褪せ、きれいだなんてとても言えない代物になってしまった。
親友は言う。だからきれいなうちに捨てておくべきだったのよ、と。きれいなうちに捨てたからこそ、あとからそれを懐かしく思うことも、慈しむこともできるの。
けれども私は思うのだ。そんなことができるなら、こんなに苦労はしないのに、と。
きっと彼女の言うことはもっともで、間違ってなどいるはずがない。でもだからこそ、わたしはそれを実行できない。いつまでも一緒にいたいから、捨てることなどしたくはなくて、いつまでも捨てられないままだから、一緒にはいられなくなってしまった。なんて皮肉な話だろう。
気分転換が必要だと思った。何も考えたらいけないと思った。考えたら、きっとまた思い出してしまうから。思い出したら、きっとまた欲しくなってしまうから。手に入れることなんて、それこそありえないお話なのに。
死に物狂いのわたしには、もうなにも見えない。見えない、はずだったのに。
「せんぱいせんぱい、一緒に帰りましょう」
何も知らないこの子は、だからわたしにつきまとう。わたしのことを好きだという。わたしはそれに耳をふさいで、きこえていないふりをする。それでもこの子は笑うのだ。わたしの都合にお構いなしで、明日もきっとへらへら笑ってわたしのことをおいかける。そしてわたしは、それがたまらなく不快でならないのだ。
「せんぱい、今日お昼なに食べました?」
無邪気は悪いことじゃない。なのに不快でたまらない。なにも考えたくないのに、わたしはそれをいつまでも抱えていたかったのに。なのにそれを取り上げられてしまいそうで、こわくてこわくて仕方ない。
「・・・鳳くん」
もうやめて、と言いたかった。大声で叫びたかった。例えば白と黒をまぜても白くはならないように黒くはならないように、ましてやピンクにはならないように、それは決して有り得ないことなのだから。
「そんな見つめないでくださいよ、照れるなあ」
それなのに鳳くんがいつものように笑うから、わたしは意味もなく泣きたくなる。ほんとは全部知っていたのだ。わかっていた、はずだった。キミがわたしのことをすきだってことも、わたしがキミをすきになるなんて有り得ないってことも。
「・・・なによもう、全部気付いてるくせにさぁ知ってるくせにさぁ」
わたしがそう言って地面にしゃがみこむと、鳳くんはさみしそうに笑った。鳳くんは知っている。そうやって鳳くんが笑うたびに、わたしが泣きたくなることとか全部。
鳳くんは言う。「ごめんなさい」諦めきれなくて、ごめんなさい。わたしの胸はぎゅうっときつく締め付けられて、鳳くんのその顔を、見つめることすらかなわない。
諦めきれなくて、ごめんなさい。
きっと笑っているのだろう。いつものようにあの顔で。
鳳くんは、知っているのだ。
鳳くんがそう笑うたび、わたしが半年前に別れたあいつを恋しく思うことさえも。
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200701...どうしても、忘れられないひとがいる。書いててちょっと痛かった。