南は誰にでも優しい。そう言うと聞こえがいい。だけどホントは誰にも無関心なだけだってオレはちゃんとしってる、南のことならなんでもしってる。 南がテニスを始めた理由も。それが不謹慎な理由だってことも、それの行く末だって。 「ちゃんの隣にいたやつ、彼氏かなー」 「・・・さあ」 どうでもよさそうに南は笑って答えたけど、ほんの一瞬だけ南の頬がぴくって反応した(ていうか引き攣った)のをオレは得意の動体視力で見逃さなかったしっかり確認した。多分それに気付いてないと思う南は。だって鈍感だから。自分が上手にポーカーフェイス作れてるって思ってるんだ。だけどね南。南は南が自分で思ってるほど上手くないんだよポーカーフェイス。 だからお願いだから。そんな顔しないで。泣きそうな顔してだけどそれでも笑って。どうでもよさそうに。自分なんてまるで何も関係なかったみたいに。ああそうだ自嘲的っていうんだこういうの。そんなのやだよ、オレ。見たくない。 「・・・奪っちゃえば?」 恋愛なんて一種のゲームみたいなモンなのに、オレにとっては。だって本気の恋はただ疲れるだけだから。だけど、南の場合は本気の恋だから。何事にもあまり執着しない南が、やっと手に入れた、唯一手放したくないと思っていた、本気の恋だったから。 「ホント馬鹿、おまえって」 南はそう言って笑った呆れた溜め息吐いた。 そうやって、南は今まで一体いくつの欲しいものを諦めてきたんだろう。仕方がないって笑って。何事もなかったかのように振舞って。自分には関係ないって。自分自身に嘘までついて。 そうやって築き上げた虚勢ばかりの南しかオレはしらなくて、それにどれだけの価値があるのかもオレはしらない。それは南しかしらないんだホントは。 だから。 「馬鹿じゃないよ」 ホントは。ホントに馬鹿なのは南だよ。頭がよすぎて他のことが別のことがわからないから南は馬鹿なんだ。頭がいいから、よすぎるから。だからいつだってモラルとかそーいう意味のないことに気をとられて。馬鹿だよ。馬鹿は南だよ。 本気で好きなんじゃなかったのちゃんのこと。だったら奪うとか振られるの覚悟の上で告ってみるとかしてみてよ。本気の恋だったんでしょそれはオレが一番よくしってる。多分南本人よりも。 「・・・叶わないってわかってた。いつもみてたから」 南の黒い髪は白い制服によく映える。いつもは頼もしく見える南の背中がなんだか酷く頼りなげに見えて今日は。オレに出来ることなんか何一つないんだって思いしらされる。 「だけど、すきだった」 元気出してよ。思いは声にならず、ただ空気として口から吐き出されただけで。 この思いは南に届くのかな。南の思いはちゃんに届くかな。 何もかも薙ぎ倒して踏みつけて抵抗してみせてよ、馬鹿みたく。頭がいいから南は。たまには馬鹿になってよ。オレは馬鹿だけど。でもそれって南の前でだけ、ほんとは。南が頭よすぎるから、だからオレが自然と馬鹿になっちゃうんだ。錯覚しちゃうんだ自分でも。自分は馬鹿なんじゃないのかって。全部南のせい。 南がどれほど悲しんでいるのかをオレはしらない。オレがどれだけ心配してるか南はしらない。いいじゃん彼女なんかいなくたってオレいるじゃん、そう言いたいのにタイミングが掴めなくて結局何も言えずに口を噤んで、自分は無力だって軽く落ち込んで。オレがそんな歯痒い思いを抱えていることだってきっと南はしらなくて。いつだってオレ等の間には薄い板一枚の壁があって。 いつだって。 南はオレを殴らないし怒らないし笑わない。 オレも南を殴らないし怒らないし笑わない。 女に生まれてきたかったなんて冗談でも思わないけど。でももしもオレが女だったら、南はオレを見てくれたかな。だけど所詮オレは男で。 だから、いつまで経ってもオトモダチの延長線上。ここを動くことなんてきっと永遠に出来なくて。知ってるんだホントは。だってオレと南は性格も趣味も、何もかも違うから。でも、だから余計に。動きたくなる。壊したくなる。真っ直ぐな線を歪めてみたいだなんて思うんだ願うんだ何度も何度も。 泣かないでよ。泣きそうな顔して笑わないでよ。南にはオレいるじゃん、あんな女の子どうでもいいじゃん。オレ等にはテニスだってあるじゃんか。 「なあ南ぃ」 南のそんな顔見たくなくてどうにかしたくて。 「・・・今度は何だよ」 「なれるかなあオレ達、親友」 なれたらいいなあ、なりたいな。声には出さずにそう呟いて。馬鹿やって腹抱えて笑いたい。殴り合いの喧嘩だってしてみたい。恋の相談にだってのってあげるよ。たまには昼間の屋上で青い空をぼーっと眺めたり、放課後にカラオケ行ったりしてさ。 「・・・おまえとそんなんなったら、疲れそう」 「それってちょっと酷くない?」 南はまた笑った。 遠すぎたのかもしれない。もしかしたら逆に近すぎたのかもしれない。それでも直線上の点と点を結ぶ距離は変わらない。もしもこの直線がぐぐっと歪んだら、点と点は重なってそれを結ぶ距離だってゼロになるかもしれないっていうのにね。だけど、それは有り得ないことだってちゃんと知ってるから南もオレも。 「オレ、南の親友になりたい」 ホントだよ。だってオレ大好きだもん南のこと。そこらへんの女の子よりもよっぽど南のこと思ってる。ホントは無理だって知ってるけれど。それでもいつだって理想と現実は背中合わせで、つまりは表裏一体で相反してるから要するに。 まるでなかなか振り向いてくれない女の子を口説いてるような。落とすか落ちるか、惚れたほうが負けだってことも。 何事にも無関心な南はちゃんに本気の恋してもオレには興味すら抱いてくれない親友になりたいとも思ってもらえない。 苦笑して、何も言わない南を見て。 この恋はきっと成就しないんだろうなあ、なんて、ぼんやり思った。 BACK 20040718...キヨはただ、南とホントの親友になりたいだけです。なんでも話して欲しいだけ。BLにあらず。 |