女性になら誰にも優しい大佐が、本当は誰にも興味を持っていないだけだと気が付いたのは、俺が直属の部下になってから随分経った頃の話だ。毎日毎日遊んでばかりで仕事も気分が乗らなければすぐサボる大佐。毎晩毎晩違う女性に愛を囁き、次の日には何事も無かったかのようにまた別の女性に声掛けて。真面目にひとりの女性を愛したことはないのだろうかと思うほどに、大佐は会う度違う女性を連れていた。ある時は、金髪で青い瞳の。またある時は、栗色のロングヘアーの。目に鮮やかな服を着飾って、香水の匂いをそこら中に振り撒き、彼女たちは大佐に腕をからめ妖艶に微笑んでいた。いつもいつも、だ。 そんな女性たちに、大佐はいつも微笑んだ。にっこりと、あれだけで多分何人もの女性が大佐に夢中になっただろう。そう思う。男の俺から見ても完璧な微笑みだった。段取りだって常に完璧で、エスコートには慣れている。相当なフェミニスト。そういったら聞こえがいい。でも俺は、それは違うと知っている。 完璧な微笑み。誰に対しても。弱みなんてどの女性にも見せない。完璧に自分を作って、透明な壁で誰にも気付かせずに自分をまもる。やんわりと、境界線をはる。そしてそこから先には誰も踏み込めないのだ。例えホークアイ中尉でも、男の俺でも。 未だに忘れられないのだ。 セントラル行きが決まったときの、大佐の一言が。 『別れろ、中央で新しい女をつくれ』 何の迷いも無く。すっぱりと切り捨てる。何もかも。上へ行くこと以外に興味も執着心もなくて、だから誰にも弱みなんて見せられない。本音も建前も。周りの人間は敵ばかりだと。 そう思っていた。大佐は、そういう人間だと。 「あのー・・・ごめんなさいすみません、ロイさんどこですか?」 「あー・・・執務室にいないんだったら・・・またサボり、かあ?」 瞳は黒く肌は白い、まだあどけなさの残る少女。異国の雰囲気を身にまとい、その笑顔はまるで例えるならば天使のようだと誰かが言っていた。あれはホークアイ中尉だったか、それともファルマン准尉だったか。 「あ、じゃあ探してみます。ありがとう」 「いやいや、どーいたしまして」 あの少女を前に、いつもと違う微笑みを浮かべる上司の姿が容易に想像できる。あの少女が上司を変えたのか、それとも元に戻しただけなのか。どちらにせよ、自分たちには出来ないことをあの少女は仕出かした。誰にも踏み込ませない領域をもっていた、自分の上司。誰に対する興味も執着心も、持っていないと思っていたのに。口元に広がる笑みをなんとか抑える。それでも瞳は笑ってしまう。 「・・・大佐もひとりの男だったってことだよなあ」 異国の少女は、はいずれ自分の国へと帰るだろう。例え自分たちが引きとめたとしても、彼女の両親や友人たちが待っている祖国に勝てるはずがないのだ。いずれ訪れるであろう、あの少女との別れ。それでも、どうかその時までは。 本当は不器用で淋しがりやな上司の傍にいてやってくれと。 そう願わずにはいられない。 BACK 20040201...ハボックさん視点。じ、時間軸とかどうなってんのこれ・・・!(もはや自己満足の世界)(!) れ、連載したいなーとか思ってるんですけどこのヒロインで・・・! |