「なんで笑うんだよ、なんでいつも笑ってんのお前」 しんとした部屋、苛ついたオレの声だけ妙に響いた。え、とは聞き返し、けれどもそれには敢えて気が付かない振りをする。なんで、なんで。こどものように、あるいは狂った人形のように、そればかり繰り返す。なんで。 「だって・・・」 目線を彷徨わせて、髪の毛に手をやって。何か考え込むような仕草。だって、何? 問い詰めるように聞き返すと、はまた笑った。ちょっと困った顔をして。それにひどく腹が立つ。笑うなよ、苛々する。お前がそうやって笑うと苛々するんだ。怒鳴りつけたくなるのを必死に抑える。 「・・・こういうケースもあるという、リアリズム?」 首を傾げてまた笑う。いい加減にしろよ、もう笑うな笑うんだったらオレの前から消えてくれ。まるで答えになっていないそれ。オレが聞きたかったのはそんなんじゃないのに。 ただ、こんな状況にもなって笑っているこいつに無償に腹が立ったのだ。きっと、多分そういうこと。それが苛々の正体で、だからオレの胸はずっともやもやしてる。 彼女に対して思っていること全て、全部、本人に向かって吐き出したら、オレは楽になれるのだろうか。この胸のもやもやとか苛ついた気持ちとか、そういうのは全部消えてなくなってくれるのだろうか。最初から、なんにも無かったみたいに? それとも。 わからなかった。何もわからなかった。自分のことがこんなにわからなくなったのは生まれて初めてだとぼんやり思った。自分がわからない。いつも笑ってる彼女のこともわからない。そう、考えて。 そうだ、自分は彼女のことを何も知らないのだと。そう思い当たる。思い当たったことに対して更に苛ついて。 ああ、目がちかちかする。そうだ、彼女は何も語らない。下らないことばかりどうでもいいことばかり、こっちが訊かなくてもべらべら喋るくせに。本当に大事な、肝心なことは何ひとつ話さなくて。淋しいとか、傍にいてほしいとか。そういうことを何も言わずにひとりで全部抱え込む。それでも彼女は笑うから。 ならない電話を握り締め、音楽で自分と世界を切り離し、膝を抱えて涙を堪える姿は容易に想像できるのに。 ああきっとオレが彼女にしてやれることなど何ひとつとしてないのだろうだからオレはこうして苛ついているのだろうだからいつまで経ってもこの胸のもやもやは晴れないのだろう、そんなことを思いながら。 「・・・悪い、ただの八つ当たりだ」 何が? 彼女はそう言ってまた笑った。その笑顔にひどく安心している自分に気が付いて。矛盾しているわかってる。だけどきっと、今更どうしようもないのだ。全て手遅れ。気付いてからじゃもう遅い。 例え彼女にしてやれることがなかったとしても、その瞳に映っているのが自分じゃないとしても。その笑顔を、守りたいと。いつまでも傍にいてほしいと。強く思ってしまう自分がいる。それをしってる。 無理はさせたくない。いつまでも笑っていてほしい。 それはもう、理屈なんかじゃなくて。 幼い自分はまだ、この気持ちに名前なんてつけられない。 だけど多分、きみが笑っていられるのならそれだけでいいのだ。 BACK 20040203...偽エド。彼女は傷を隠してひたすら笑う。不甲斐ない自分が許せなくて。いずれ連載しようとしているお話の番外編みたいなもの。 |
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