だって飛べるはず







もう子供じゃないのに。それなのに、伝えたいことを言葉にして言えない自分が、情けなくって仕方がない。

本当は不安なんだいつだって。彼女は何も言わずに傍にいてくれるから、オレはそれに甘えることができた。なんにも言わないでよかった。少し離れた場所でもいい。彼女のぬくもりさえ確認できれば、オレはそれだけで満足だったのだ。

なんて綺麗事。まるでただの自己満足。

右手左足がオートメイルだからって、禁忌を犯したからってオレのことを嫌うような彼女じゃなかった。何も言わずにただ微笑んで、優しくやさしくオレを包み込む。そうやってオレは現実から目を逸らすのだ。現実を見失ってしまうのだ。

だって、彼女の傍はいつでも居心地がよかった。立ち直った振りをしないでよかったのだ、オレは。彼女の傍にいる時はいつだって。

「・・・今度、いつ帰ってくる?」
「・・・さーな」

甘えてばかりじゃいけないと思った。自分の気持ちを、言葉にしてちゃんと伝えなければいけないと思った。それなのに口から出てくる言葉は捻くれたものばかりで、それでもは笑ってくれる。甘えてばかりじゃ駄目なのに。もう子供じゃない。オレは男なのに。

いつから? 一体オレは、いつからこんな風に。いつからこんな臆病者になったのだろう。たった一言だ。目の前の彼女にそれを伝えるだけなのに。

賢者の石を探そうと、アルを元の身体に戻そうと。自分も元の身体に戻ろうと。決心した時だって、こんなに悩まなかった筈だ。軍の狗になることを決めたときだって。

男だろ! こんな一言、簡単に言ってみせろよ。じゃなきゃ賢者の石だって見つからない。こんな一言言えないままじゃ、オレだってアルだって元の身体になんて戻れる筈がない。

「・・・あの、な。
「・・・・・・何?」
「言いたいこと、あったんだ。ずっと」

ずっと、ずっと。伝えたいことがあったんだ。他でもないに。

声が震えている。どうか彼女に気付かれませんように。額に流れる冷や汗も、ぎゅっと握り締めた拳にも、気付かれませんように。どうか。神様だって今だけなら信じてやってもいい。どうか、彼女に気付かれませんように。神様。

「・・・あのな、」
「うん」
「オレ、本当は」





「ずっと、傍にいて欲しかったんだ、に」





ずっと、ずっと。言いたかったのに言えなくて、彼女の優しさに甘えてばかりで。いつか言おう、いつか言おうと思っているうちに、オレは村を出て。帰ってくる度に伝えようと思っても、やっぱり彼女に甘えてばかりで。

他愛もないことだって馬鹿にされてもいい。なんで今更そんなこと、って言われても構わない。これはもう、ただの自己満足。伝えられたら、それで十分。だって、オレは確かにいつだって、の傍にいたかった。に傍にいてほしかった。本当は今だって傍にいてほしい。だけど、根無し草のオレにそれは叶わない願いだから、困らせたくないから、それは、言わない。

はくしゃりと顔を歪めて笑った。嬉しくて笑っているのか、それとも悲しいのか困っているのか、それはよくわからない。はそれから、オレを見上げてゆっくりと言葉を紡ぐ。





「わたしもね、ずっとずっと、エドの傍にいたいと思ってたよ?」





自然と頬が緩む。言葉は過去形だったけど、それには何も言わなかった。だけど多分、理由は同じだと思う。

だってオレは根無し草だ。今度はいつ帰って来られるのかもわからない。もしかしたら、次に会う時はもう何年も経った後かもしれない。だから、彼女を言葉で縛り付けることはできない。オレにはそんな力もないし、自信もない。





の頭をぽんぽんと撫でる。昔みたいには笑った。
の笑顔とこの手に残るぬくもりさえ憶えていれば、何だってできるような気がした。





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20040208...エド。きっといつかまた、きみのもとへと帰ってくる。