高速道路とか国道何号線とか? あんましよく知らない。車とか使ったりしないし、知らないからって特別困ったりする訳でもないし。ああほらなんだっけ。よくラジオとかでさ、上り何キロ渋滞、下り何キロ渋滞って流れてたりすんじゃん、お姉さんの声で。やっぱ何て言うのか知んないけどさ。そーいうの聞いたりすんのすきなんだおれ。実際おれには全然関係ないし何かの役に立つ訳でもないし、意味もないけど。テレビでもやってたりするけど個人的にはやっぱラジオの方がいい。んで、それを聞くのは出来たら早朝。妙なこだわり。無意味なことをするのは嫌いじゃない。おれの、ささやかな周囲の大人達に対する反抗と自己アピール。ってことにしといて、何かかっこいいから。どこが、なんてつっこみはいらないよ。されたら困る、ほんのちょっと。 大石とか不二とか相手にして語ったら変だって笑われたけど。だけどやっぱすきなモンはすきだし。ほらテニスと一緒じゃん。すきだからやる。それ以外に何か必要? 他にあるなら面と向かってはっきり言って欲しいおれとしては。わかりやすく、尚且つ簡潔に。あ、出来れば250文字以内でね。おれを納得させてください。そこんとこよろしく。 そんな風に少し訳わかんない言い訳じみたことを考えながら、早朝の散歩っていいなあ、なーんて頭の隅で幸せ噛み締めつつ、のんびり歩いてた。ホントにのんびり、むしろのーんびり。犬の散歩してるおじいさんに抜かされた。ちょっと屈辱的。 ふうやれやれ。高速道路は渋滞するかもしんないけど、こんな狭っちい道路は渋滞しないよ神さまに誓って。や、神さまがいるなんて信じてないけどとっくの昔に。ていうか、こんなとこを道路って呼んでいいのかどうかが謎だそもそも。だってさ、ここを仮に道路と呼んだとして、そしたら日本全国、つーか世界中の道路たちに失礼だと思う訳、車だってめったに通らないし。ああそうだ路地だ路地。そうだよ路地っていうんだこーいうの。家と家との間の細い道。幼稚園の卒園記念にもらった学習新国語辞典に載ってた。今でもその辞典、シミひとつついてなくってきれいだよ。これはちょっと自慢。 そういや一般世間では今日って日曜日で休みってことになってるけど、おれは部活があるからのーんびり歩いてる場合じゃないんだホントは。早く行かなきゃ、頭の片隅でそう思いつつ歩くペースは相変わらずのーんびり。ちっとも速くならない、逆に遅くなってるような。ああ、さっきの犬もおじいさんももう見えないよ。 あーあ。だっておれにもさ、まあ色々とあるんだよ色々と。だって中学3年生、一般世間で思春期なんて呼ばれちゃってるお年頃。それなりにいざこざがあるんです。あーもういいや、今日はサボり決定。サボタージュ万歳。マンセー! 大石ごめん、今日ダブルスできないや。心の中で大石に謝ってみたけどやっぱり無意味。ああそうだよ、手塚に上手く言い訳しといて、せめてそんくらいは伝えとくべきだった。ほんのちょっとだけ後悔。むしろ大いに後悔。果てしなく地球の裏側まで後悔。ごめんねごめんよごめんにゃー。謝るからどうか怒らないで、なんて無理かなムシがよすぎるかなあ。 はーあ。無断欠席なんてしたら一体手塚に何周走らされんだろ。桃の時は100周だったな確か。でもそれは3日間も休んだからって話で。おれの場合は1日だし、たったの。だったら100÷3で33.333…うーんよくわかんないけど30周はかたいかなあ。やっぱり行こうかな部活。そう思ったけどなんとなく目に入った床屋の時計は見事に集合時間オーバー。遅刻してまで部活行く? …どっちにしたって走らされんなら何周だって同じだし。もういーや。 今日はサボり決定。あ、なんかこのセリフさっきも言った気がする。 さーてと、どうしようこれから。今更家に帰るってのもアレだし。ていうかお金あったっけおれ。もしもあったら電車乗ってどこか行こうかな。淡い期待を胸に抱いて、財布の中を覗いてみれば全財産219円、ドンマイ自分。やっぱ月末は苦しい。だけどどんなに苦しくてもあと1週間を219円で乗り切らなくちゃいけない訳で。それはつまり電車はおろかバスでさえも諦めなくちゃいけない訳で。 これからどうすればいいんだろう。 これからどうするべきなんだろう。 仕方が無いからまた歩き出して、ぼんやり考える。今頃みんな何やってんのかな。部活やってる人もいるだろうし勉強してる人もいるだろう。なんてったって受験生だし。エスカレーターなんつっても結局のところ、受験生はどこまで行っても受験生、周りの雰囲気に負けそうになる。わざわざエスカレーター降りてまで、階段使うことないのに。そんなことしなくてもいいのに。もバカだよなあ。 はおれのクラスメイト不二の彼女。そしてヤツはご丁寧に公立を受験すると言い出した。「行きたいところがあるの」言いながら笑った。右手を握り締めて。 驚いた。まさかもうが将来のことを考えているなんて思わなかったこれっぽちも。不二から離れるなんてしないと思ってた絶対に。だって、あのふたりは両思い、一般世間で言う彼氏彼女なのに。「仕方ないよ」さみしそうに笑った不二の後姿が今でも目に焼き付いて離れない。 どうしてすきなのに離れたりすんだわざわざ。いや、もしかしたら信じてるのかもしれないふたりは。お互いを。これくらいじゃどってことないって。 てくてくてく。駅前の商店街には少しずつ人が増えてくる。人ごみの中にいるのが嫌でそんな気分になんなくて、足早に商店街を抜けた。さっきの犬とおじいさんを見つけた。抜かした。どうだ、まいったか。なんて、むなしいだけだ。 そのまま足は自然と小さい頃よく遊んだ公園へ。なつかしーなんて思いつつぐるりと一周。ブランコに乗って、ポケットからラジオ取り出してスイッチオン。 『…路、上り14キロの渋滞です…』 タイミングよく流れる道路交通情報。の小刻みに震えていた右手。不二の後姿。このままふたりがもしも別れてしまったら、おれが何のために諦めたのかがわからない。 協力してくれるよね、とか、ごめんね、とか。おれが聞きたかったのはそんなセリフじゃなくて。そんなんじゃなくて。 面倒事はすきじゃない。どろどろの三角関係なんてごめんだし、だっておれは気分屋だし。難しいことはよくわからない。簡単に諦めがつくような、その程度の淡い淡い恋心。恋とも呼べないかもしれない、もしかしたら。だけどそれでも不二は勘が鋭いヤツだから、きっと絶対たぶんおれの気持ちに気付いてた。知ってておれに頼んだんだ、協力してくれって。ああ、あーいうのを策略家って呼ぶんだろう、おれにはとても真似の出来る芸当じゃない。 ごめん、なんて。そんなセリフ聞きたくなかったよおれは。からでも不二からでも、聞きたくなかったよそんなの。 おれが聞きたかったのは――ありがとう 右から左、通り過ぎてく道路交通情報。 ねえ、おれの頭ん中、一体何キロ渋滞してんの。 BACK 20040322...菊丸くん。去年か一昨年に書いたもの。ジャンルが違っても暗いのは変わらないらしい(・・・)。 |