「じゃあ何お前、まだ言ってないの千石に」 ドア1枚で隔てられてる部室の中から声がする。伸ばしかけてた手を止めて、どうしていいのかわからずに部室の前で立ち往生、思わず聞き耳立ててみる。言ってないって一体何を。声の主は東方、十中八九間違いない。だったらオレに何かを言っていないのは、絶対多分きっとおそらく。 「・・・言ってない、けど」 ほんの少し掠れてる南の声が部室に響く。部室の外まで聞こえてる。ああほらやっぱり南じゃん。それならオレは知っている。南がオレに言っていなくて東方なら知っていて。だけどそれでもホントはオレも知っている。だけどふたりはそれを知らない。オレはそれも知っている。だけど知らない振りをする。 南について。東方が知っていること。オレが知っていること。南がオレに隠していること。南と東方がオレは知らないと思っていること。全部、一緒。 コートの隅で話してた、南とあの子を見つけたときからひとつのことを考えていた。部活の後でひっそりこっそり話してた、南とそれから東方。人生相談真剣十代喋り場みたいな雰囲気で、近づくことすらかなわなかった。頭も胸の辺りでさえもなんだか無償にもやもやしてて、考えすぎて考えすぎてオレが腹を壊したことだってきっとあいつらはしらない。気付いてない。オレってばこんなにデリケート、あいつらはそんなわけないって笑うけど。けど。 しらないわけないじゃん、オレに対する南の態度が最近急によそよそしい、そんなのいくらオレでも気付いてる。だけど知らない振りをする。だから知らない振りをする。 ねえオレには話したくないってことでしょ南。信用してないんでしょオレを、オレらの友情とかそういう類のもんを。だから話さないんでしょ話せないんでしょ、こわいから。 こわいなんて、そんなんオレだって一緒なのに。 わかるよ、今までの関係崩したくないんだ南は。だから中途半端に逃げることもできないし踏み込むこともできない。だって南だもん、オレはそれを知ってる。知ってるよ。それにホントは気付いてる、だったらオレが逃げるか踏み込むかしなくちゃいけない、じゃなきゃいつまで経ってもこのまんま。だけどそれでも立ち往生。オレだってこわいんだ。逃げることなんてしたくはないけど踏み込む勇気もでないんだ。 南とあの子が付き合ってるって事実より、それを内緒にされているって事実の方がツラいこと、南はどれだけわかってるかな。そんなことで音を立てて崩れちゃうほどオレらの友情ヤワじゃないでしょ?ねえ南。 まるでノイズがかかったみたいにふたりの声が遠くに聞こえて、オレはひとりで夏の入道雲に、自分の明日をひっそり願った。 ねえ南、明日も精一杯馬鹿な振りするから、知らん振り貫き通すから。 ねえお願いだよお願いだから、離れていったりしないでください。 BACK 200407...夏色お題12より。千石は、南ちゃんがだいすきなんです。 |