そのに願いをこめて







ギリギリの均衡を保ってやっとのことで立っている。ちょっとのことでもすぐ揺らぐ。地面が揺れたら崩れてしまう。一度崩れたバランスを取り戻すのは難解で、それでも少しも飽きもせず、何度も何度も繰り返す。

そう、それはきっと似て非なるもの。表面だけは綺麗に見えても底を覗けば汚いそれが視界に入る。

『・・・やさしーんだね』

彼女は瞳に涙を溜めてあたしにそう言いにこりと笑った。あたしは黙ってずっと彼女の傍にいた。違うのよ、優しくなんかないの。思っていたけど口には出せず、かわりにあたしの掌はそうっと彼女の背中を撫ぜた。

あと1歩がどうしても踏み込めない。ギリギリの均衡を保ってやっとのことで立っている。その片足を上げただけでもすぐ揺らぐ。地震が起きたら崩れてしまう。

ねえ、エドは知ってるのかしら。
泣かせないって、あたしと約束したくせに。

そう、彼女はその目を大きく見開いたまま、そこから1歩も動こうとしなかった。だんだんと視界から遠ざかっていくそれを、ただ只管にじっと見つめていた。隣にあたしがいることも忘れ、彼女はその全神経を、見ること、記憶すること、ただそれだけのために費やした。彼らの背中を、遠ざかっていく列車を、その瞳に焼付け、そして記憶するため。ただそれだけのため。

きらきらきらきら、眩しいくらいの輝きを放っていた、それ。
それを、彼は知っているのだろうか。

そう、きっと。勝ち負けなんかそこには存在していない。それは重々承知の上で、それでもやっぱり比べてしまう。あれがあたしだったら? 列車に乗っていたのがあたしでも、それでも彼女は泣いてくれたのだろうか。答えなんて、でてくる筈がなくて。

だってあの列車に乗っていたのはあたしじゃない。
あのこの涙はあたしのためじゃない。

そうしてあたしは今までやっとのことで保ってきたバランスを失うのだ。
いつだってそれはいとも簡単に崩れ去る。





ねえ、お願いだから。お願いだからどうかだけは――





願いをこめて背中を撫ぜた。
そう、それはきっと似て非なるもの。本当は優しいわけじゃない。





ねえ、いつからあたしはあんたがいないとダメになっちゃったんだろうね。
本当はいつだって、こうして隣にいるだけで精一杯なの。





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20040603...ウィンリィ?(疑問系)こ、こんなんばっかですみませ・・・!(ひい!)