バレッタはっている





今でも憶えてる。瞳を閉じれば思い出す。さらさら流れるあの子の髪の毛。頭の後ろでその髪の毛をとめていた、ピンクのバレッタ。





思えば、あたしがあの子にしてあげた最初のプレゼントはバレッタだった。

プレゼントなんて呼べるような大層な代物じゃない。ましてやそれはあたしがいつも身につけていた、要するにお下がりのようなもので。それでもあの子はとっても嬉しそうな顔をして、幸せそうに笑ったもんだから、なんとなく申し訳なく思ったのを憶えてる。ああ、そんなに喜んでくれたなら、もっといいものあげたのに、って。後悔にも似たような。

だけど名目なんて、あの子にとってはどうでもよかったのかもしれない。大事なことはいつだってちゃんと理解してる、そういう子だったからあの子は。そこらへんはあたしよりもよっぽど大人で。

・・・いじめられても何も言い返さずに、じっとしていたのもそこに理由があったのかもしれないけれど。

『・・・。あんた、そんな髪の毛で顔隠してるからいじめられんのよ』

今思えば、随分と酷い言い様だったと思う。我ながら。





ねえ、あれから何年経ったかな。
あれから、一体何がどう変わったのかな。





彼と彼女の背中を押したのは間違いなくこのあたし。スパナを握っていつもみたいに笑って意地を張りながら、あの子の背中を押したのを、まるで昨日のことのように憶えてる。

だけどそれでも実感なんかわかなくて。

ああ、こういうことだったんだ。背中を押すって言うのはこういうことなんだ。あのふたりが幸せになるっていうのは、こういうこと。そう理解したのはついさっき。ほんと間抜けすぎて笑っちゃうわよ、冗談じゃない。

だって今でもよく憶えてる。瞳を閉じれば鮮明に思い出す。さらさら流れるあの子の髪の毛。頭の後ろでその髪の毛をとめていた、ピンクのバレッタ。桜の花を象った、あたしが見たこともないバレッタ。あの子の髪の毛に桜の花の薄いピンクが良く映えて。すごく似合ってた。あたしのバレッタなんて、もう用無しみたいで。





まさか失恋よりも、そっちの方にショック受けてるなんてね。
ほんと、笑いすぎて涙が出ちゃうわよ。





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20040227-28...ウィンリィ。裏設定ではひっそりとエドです(!)。似たり寄ったりだ・・・!