主義者よ、空に詠え







ありったけの勇気を振り絞って話しかけてみれば、は泣きそうな顔をしてオレを見上げた。眉を八の字にして、心底困ったように視線を宙に漂わせて。その表情に思わず顔を顰める。そんな顔をして欲しかったわけじゃない。オレはただ、お前の笑った顔が見たかっただけなのに。それだけなのに。

いつだってそうだ。口をついて出てくる言葉はいつだって思っていた言葉と正反対、思いっきり180度異なっている。怖がらせたいわけでもないし、傷付けたいわけでもない。それなのに我に返って冷静に思い出してみれば、いつだってこいつを怖がらせてるし、傷付けてる。情けなくって仕方が無くてまるでお話にならない。

オレの態度が悪いから。臆病者だから。天邪鬼で素直になんてなれないから。だから。だからだからだから。

だから例えばこいつはオレと目が合ってもすぐに視線を逸らすし、話しかければ泣きそうな顔をするし、たまに一緒に帰っても俯くばかりで一言も喋らない。隣に並んで歩こうとすらしなくて、いつだってオレの3歩後ろを歩くのだ。

他の男に対しても同じ態度をとるのなら別に構わない。けれどもこいつは、そう、例えばアルとなら普通に話をするし、笑った顔だって見せるし、隣だって並んで歩く。もしかしたら自分は嫌われているのかもしれない、とかぼんやりと考える。そして、それはきっと間違ってなどいないのだ。

「・・・あー・・・と、」

ちょっと声を出せばびくり、と身を竦ませるこいつを目の前に、我ながら随分とまあ嫌われているものだとしみじみ思う。いくらなんでもここまであからさまだと流石に凹むし、凹むを通り越して段々と苛ついてきてしまう。それでも上手い台詞は思い浮かばないし、そうこうしているうちにこいつの顔はどんどん泣き顔に近づいてゆく。

こいつの喜ぶ顔が見たいのに、笑った顔が見たいのに。何をしてやれば喜ぶのか笑ってくれるのかもわからない。

がしがし頭を掻き毟る。いくら勉強が出来たって、いくら高度な錬金術を使えたって、こういうことがわからないんじゃ意味が無い。どうしたら喜ばせてやれるのか、わからないんじゃ。心底己を恨めしく思う。

どうしてオレは気の利いたセリフのひとつやふたつ、言えないんだろう。
どうしてこいつは、オレの前だと笑わないんだろう。

八つ当たりにも似ている、それ。

「・・・あのな、」
「・・・・・・は、はい」

そんな顔してオレ見るのやめろとか、目ぇ合ったときすぐに視線逸らすなとか、話かけるたびに泣きそうな顔すんなとか、一緒に帰るときぐらい何か話せとか、隣歩けとか、

笑え、とか。

言いたいことはある。それこそ山ほどある。だけど例えばオレが今、それをこいつに言ったなら、こいつは確実に泣き出すだろう。オレはそれを知っている。何をしてやればこいつが喜ぶとか、肝心なことはわからないくせに。こいつはこれをやったら泣き出すとか、そういうことだけ知っているのだ、オレは。

本当はこいつの喜ぶ顔が見たいし、笑った顔だって見てみたい。だけどオレにはその術がない。どうしていいのかわからない。

わかっているのはひとつだけ。こいつはオレの前でだと笑わない。笑えない。それなら、オレのせいで笑えないのなら、オレがこいつに近づかなければいい。





「・・・もう、困らせたり、しないから」





その一言を言うのだけでもう、精一杯で。すぐにそこから逃げ出した。
オレの思うところは、果たしてに届いたのだろうか。





澄み切った青空に、柄にも無く願いをかけた。





せめて、優しくて泣き虫なあいつが泣かないですみますように。
オレの前で、笑ってなくてもいいから。





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20040219...誰が何と言おうとエド。エドなんです(・・・)。こないだのウィンリィを微妙に引き摺っている(!)。