Be drugged to the eyeballs.






湿気の多いべたついた空気に頭痛がする。頭に手をやりながら窓に寄り、外の世界を垣間見る。視界に映った風景はどんよりとしていて薄暗く、しとしと音を鳴らしながら窓を濡らす自然現象は、俺のやる気を半減させた。

ああそういえば、あの日もこんな風に雨が降っていた。それを思い出した。口から吐き出された息は白くなって視界を遮り、彼女の姿を見えなくさせた。もやがかかった視界の中から現れた彼女は、それでも強烈な存在感をもってそこにいたのだ、確かに。少なくとも、俺にとっては。

・・・きっと、大佐にとってもそうだった。
いや、大佐だけじゃなく。ここにいる誰にとっても。きっと。

ムードメーカー。それだけじゃ言い尽くせないほどの存在感。彼女がその場にいるだけで周囲は華やぎ、ふわりと心地良い空気が流れるのだ。そうしてゆっくりと、けれども確実に、少しずつ少しずつ侵食されてゆく。軍人ともあろう者が、こうもあっさりと。支配権を譲渡してしまうなんて。まだまだあどけなさが残る少女にああもあっさりと。――けれども不快感などは微塵も感じていないのだ。それを、知っている。

残されるものはいつだって彼女の残り香と紅茶だけ。
他には何も残さない。余分なものは、何も。何ひとつ。

そう、彼女は自分たちにないものを持っている。安らぎだとか、優しさだとか。例えば希望や憧れ、そういった類の言葉たち。そういう綺麗なものを、彼女は知っている。

まるで寄せては返す波のように。彼女が、あのあどけなさの残る少女が大佐の全てを包み込んでしまった。神のように、海のように、あるいは母のように。彼女が大佐の全てを優しく包み込んでしまったあの日から。

――ああ、あの頃からだ。大佐があんな風に笑うようになったのは。

「ハボックさんハボックさん、紅茶はいりました」
「おー・・・サンキュな、
「どういたしまーして!」

その声と、笑顔に。安堵のあまり眩暈を憶える。居心地が良すぎて離れられない。それはきっと俺だけじゃない。彼女に出会った全ての人間が。きっと麻薬中毒者のように。どうしようもなく、彼女を求めて已まないのだ。俺だけじゃない。

「・・・大佐に、持ってったのか?」
「あ、ロイさんは後で・・・今、忙しそうだったから」
「行ってやれよ今。じゃないとスネるから」
「あー・・・それもそうですね、そうします」

くるりと踵を返す彼女を無言で見送る。紅茶の湯気で彼女が見えない。それでも彼女は強烈な存在感をもって、確かにそこにいる。

そう、きっと。
彼女の瞳に映っているのは最初から、たったひとりの男だけなのだ。





「麻薬中毒者の、禁断症状か・・・」





頭痛を堪えて紅茶を飲み干す。
鮮明な視界の中に彼女の姿はなかったけれど。





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20040526...ハボさーん! あなたを幸せにしたいのに・・・!