DRIVE







「・・・海、いきたいなあ」

遠くを見つめて彼女はぽつりと呟いた。言いながら、おれのタオルで涙を拭いた。瞳は真っ赤に充血し、肩を震わせ俯いた。それはまるで小さなうさぎを連想させる。

小さな小さな彼女の恋が、遂に終わりを告げたのだ。

すん、と小さく鼻をすすって、彼女は再び呟いた。海、いきたいなあ。おれはどう答えていいのかわからずに(そもそもただの独り言かもしれない)、黙って彼女の隣にいてやることしかできなかった。いつだってそうだ。おれに出来ることなんて、いつだって限られている。限界がある。

生温い風がおれと彼女の頬を優しく撫ぜた。うだるような暑さの中、思考はどんどん低下していく。何をするのが最善なのか、何をどうしたら彼女はいつものように笑うのか。それともおれはここから消えた方がいいのだろうか。いや、それは違うだろう。おれのワイシャツをぎゅっと握り締め、小刻みに震えている彼女の右手が、何よりもそれを雄弁に物語っている。

ああそれでも、彼女の右手は握れない。

すすり泣く彼女の横で、自分の不甲斐なさを実感する。海にいきたいと呟いた彼女を、けれどもおれはそこに連れて行ってやることができない。車も無いし免許も無い。16歳にならないと原付だって許されない。ここから海までチャリをこぐには無理がある。

それでも、伸ばした左の掌に。

今はまだ。車もバイクも無いけれど、を海には連れて行ったりできないけれど。いつか海に行けるような日がきたら、その時は。きっとを連れて行くから。

伸ばした左の掌に、握った小さな掌に。小さな固い決意を込めて。
が振られてよかったなんて、不謹慎にも思ったおれは。





それでもこの決心は揺ぎ無い。
いつか、きっと必ず。きみを海まで連れてゆく。





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200407...夏色お題07より。南ちゃんと海に行きたい(希望)。