こんなのって、おかしい。目の前の彼女があまりにも小さい。震える肩は自分のてのひらを拒否している。顔を上げない。目を見ない。

こんなのって、おかしい。だって季節はもう夏で、桜はとっくに散っていて、だからエイプリルフールじゃない。ましてや、嘘をついていい日なんかじゃない。だったら、これは何だ。ぎゅう、と自分の頬をつねった。嘘でも冗談でも、ましてや夢なんかでもない。だったら、これは何だ。

こんなのって、おかしい。いつもの彼女はこんなんじゃない。馬鹿みたいに笑って、課題を忘れたといっては無理矢理オレからノートを奪って、好きだと言っては抱きついて。だから、これは彼女じゃない。

こんなのって、おかしい。こんな彼女は見たこともない。こんな風に肩を震わせる彼女なんて知らない。こんな風にうつむく彼女なんて知らない。オレが一番知ってる彼女はこんなんじゃない。だから、これは彼女じゃない。だったら、だとしたら、こいつは誰だ。

オレは馬鹿みたいにまばたきを繰り返すことしかできない。彼女の言葉も右から左に流れてく。背中に伝う嫌な汗に舌打ちして、他人事みたいにこの状況を傍観している。いつかのドラマで見た、これは、別れの、





そうだ、家に帰ったら、シャワーを浴びよう。この嫌な汗、全部流してさっぱりしよう。腹いっぱいメシ食ったら花井にメールして、明日の英語の小テストの範囲を確かめる。そしたらちょっと勉強して、今度の練習試合に備えて三橋の配球組み立てて、明日の準備して、布団に入ろう。のことは、考えないで。

だって、が本心でこんなこと言うわけないんだ。それはオレが一番よく知ってる。だったら、そんなことでいちいち悩んだって。そんなの無駄な話じゃないか。そうだろ?





のことは、オレが一番知ってんだ。だから、











夢から醒めたら だと嗤って
(あれ? 最後にあいつが笑ったのって、いつだっけ?)







BACK

20070728-29...阿部くん。事実を受け入れたがらない。